契約書作成・レビュー

契約書の重要性

そもそも契約書は何故作られるのでしょうか?

法律上、(一部の例外を除いて)口頭の約束であっても、契約として有効に成立しうるとされていますし、例えば、日常的な買い物(これも立派な売買「契約」です)などにおいては、わざわざ契約書など作成しなくとも、ほとんど問題になりません。

しかし、これは「物やサービス」と「現金」を交換するという、単純で、しかも、その場で完結できる関係だからこそであり、より重要あるいは複雑な権利関係が生じたり、さらには継続的な関係構築を前提とするビジネスの場においては、口頭の約束のみで事業を進めていくなど、あまりに危険が大きすぎると思われます。

ところが、(流石に契約書を全く作成したことのない企業など、ほとんど存在しないとは思いますが)「お互いの信頼関係が構築されていることで十分だ」という、(良くも悪くも日本的な)感覚から正式な契約書を作成すること自体を極力回避しているか、「100回に1回あるか無いかというようなトラブルを防止するために、わざわざ費用や時間をかけ、さらには取引相手先に嫌な顔をされてまで、細かな契約書の条項を詰めたりする必要などあるのか」といったような負担感から、作成するとしても、一般的な雛形を特に修正することなく使用しているだけという状況の企業も少なからずあるのではないでしょうか?

しかし、実際問題として、たった1回だけの契約トラブルが、残り99回分の利益を帳消しにするほどの損害を生じさせたり、さらには企業自体を揺るがすほどの問題となるケースも、現実に生じているのです。

また、契約書を作成する意義については、後日紛争となってしまった場合に、「証拠」になるという側面が強調されることが多いようですが、それ以前に、契約書の文言を検討する過程で、契約内容から生ずる権利義務関係について、お互いに正確に理解できるようになり、誤解による無益な紛争を未然に防止できるほか、事前にリスクの所在を分析する契機になるなど、内容的に無理な契約、リスクに見合わない契約を回避することにより、紛争そのものを生じさせない効果も期待できます。(いわゆる予防法務という観点であり、本質的には、こちらの方がより重要ではないかと考えます)。

もちろん、紛争の防止という消極的側面だけでなく、様々な契約条項、特約を設定する事により、積極的に自らにとって有益な契約にしていくという側面も、欠かすことのできない重要な要素であることは、改めて云うまでもありません。

このように、たとえ多少の手間やコスト(実際には、それほどの負担ではありません)を掛けたとしても、しっかりとした契約書を作成しておくことは、決して企業活動トータルでのコストとリターンの関係を悪化させるものではなく、むしろ、企業活動の安定性や利益の最大化のために、欠かせない極めて重要な要素になってくるのです。

契約書作成上の注意点

もちろん、契約書は、ただ作れば良いというわけではなりません。
せっかく作成する以上は、以下のようなポイントを押さえたうえで、必要とされる項目を過不足なく整えなければなりません。

① 契約の要素となる事項が、いわゆる5W1Hに沿って具体化されているか

特に、契約の目的物(仕様や要件定義)や、履行時期といった、契約の中核的部分が明確になっていなければ、契約の存在意義自体が失われかねません。

また、契約書の表現自体も、自分が理解できれば良いということではなく、第三者、特に裁判所などの最終的な紛争処理機関において、どのように理解されるものであるかを慎重に検討したうえで表現を決める必要があります。

② 万が一問題が生じた場合のリスクがコントロールできるか

相手方に契約違反があったり、逆に自らの契約履行が困難となった場合などに、どのような対処や解決(契約解除や損害賠償など)ができるかについては、予め十分に検討しておく必要があります。

もちろん、ありとあらゆる場面を想定した契約書を作成するのは困難ですが、できる限り、予めの対応策を定めておくことは、将来、万が一の事態が生じたときにおける、問題解決の容易さを大きく左右します。

③ 税効果も含めたスキーム全体の構築

たとえビジネス上は利益があがる取引であったとしても、税効果を含めたトータルで利益が出るとは限りません。特に、最終的には同じ結果となる取引であったとしても、どのような過程あるいは法律構成をとるかにより、税法上の取扱が異なる場合もありますので、契約の検討に当たっては、税効果の分析も決して怠ることはできないことになります。

④ 契約内容が法令(会社法や独禁法、下請法など)に抵触しないか

基本的には、当事者間の合意が有る限り、自由に契約条項を定めることが出来るとされています(契約自由の原則)。しかし、ある種の法規(強行法規)に関しては、これに反する内容の契約を締結しても無効とされてしまいます。さらに、法令に違反するような内容の契約を押しつけているなどとして、信用低下に繋がる可能性もありえます。いずれにしても、細心の注意が必要です。

代表的な契約条項

ここでは、契約書に頻繁に用いられる一般的な条項の例をご紹介致します。

① 定義条項

定義条項とは、契約者双方の解釈が異なる可能性のある用語について、正確な定義を与え、双方の解釈の違いから発生する将来の紛争の予防するためのものです(通常は、契約の冒頭にあります)。

【例】
第○条(定義)
本契約において、次の語句は下記の意味を有するものとする。
1 「商 品」:・・・
2 「原材料」:・・・

② 契約期間に関する条項

契約の効力が、いつから生じ、いつまで継続するのかという大変重要な点に関する条項であり、特に、ライセンス契約やフランチャイズ契約などの継続的契約においては、契約期間の定め及びその更新方法の定めが極めて重要なものとなってきます。

【例】
第○条(契約期間)
本契約は、本日から2年間有効とする。
ただし、本契約の満了日の6ヶ月前までに、当事者の一方が相手方に対し、本契約を終了させる旨の書面による通知をして終了させない限り、自動的に1年ずつ更新されるものとする。

③ 解約・解除に関する条項

相手方との契約関係を続ける事が不利益となってしまうような場合に備えて、契約期間の途中で契約関係を終了させる(解約する)自由があるか否か、あるいは、どのような条件が整えば契約関係が消滅するのかを、事前に明確にしておくことが大切になってきます(逆に、そのような条項を設定しなかった場合、相手方の合意なしに契約関係を終了させるのは困難になります)。

【例】
第○条(解約)
甲は、1か月以上の猶予期間を定めて相手方に通知することにより、本契約を解約することができる。

第○条(解除)
甲又は乙は、相手方に次の各号に該当する事由が生じた場合、何らの催告なくして、直ちに本契約および本契約に基づく個々の契約の全部または一部を解除することができる。
1 本契約又は個別契約に違反したとき。
2 破産・民事再生・会社更生等の倒産手続きの申立てを受けたとき又は自ら申立てをしたとき。
3 第三者より差押え、仮差押え、仮処分、公売処分、納税滞納処分、競売等の処分を受けたとき
4 ・・・

④ 損害賠償の制限条項

契約違反があった場合、当然、損害賠償の問題が生じます。

しかし、債務不履行における損害賠償は、不履行と相当因果関係のある範囲にまで及ぶ可能性があるため、これをそのまま適用すると、違反者側が非常に大きな賠償責任を負う危険性があります。そこで、想定外の損害賠償義務の発生を免れるため、賠償の範囲を当事者の合意した範囲に限定する場合があります。

その一方で、不履行による損害賠償の額を立証することが困難であると想定される場合には、「違約金」の額を予め定めるなどの方法をとることもあります(損害賠償の予約といいます)

【例】
第○条(損害賠償の制限)
甲または乙が本契約を履行する上で相手方または第三者に損害を与えた場合、損害を与えた者は、本契約の契約金額を限度としてその賠償の責めに任ずるものとする。

⑤ 秘密保持条項

契約の内容によっては、自社の秘密情報を開示したり、あるいは相手方より秘密情報の提供を受ける場合があります。そして、その秘密情報が、第三者に漏洩されれば営業に支障が出る危険のある情報である場合には、秘密を保持するという義務を課す必要が出てきます。

なお、ここでの例文は極めて簡易なものであり、実際には、より詳細な条件を設定することが多いと思われます。また、独立した「秘密保持契約書」を作成することも珍しくありません。

【例】第○条(秘密保持)
甲および乙は、本契約に基づいて相手方より提供された情報を秘密として取り扱い、その管理に必要な処置を講ずるものとする。

⑥ 訴訟管轄条項

お互いの住所が離れている場合、管轄裁判所がどこであるかという問題は、現実に紛争化した場合の負担の大きさに直結してきます。当然、可能な限り、自己の訴訟進行に有利な裁判所を「専属」合意管轄として定めておくことが理想となります(こうすることにより、相手方住所地での裁判を強制されなくなります)。

【例】第○条(合意管轄裁判所)
本契約に関し訴訟の必要が生じたときは、訴額に応じ、東京簡易裁判所又は東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

その他、契約書中によく見られる注意すべき言い回しについて

① 「・・・等」

定義規定などによく見られますが、この一文字が入ることにより、どこまでが範囲に含まれるか解釈の余地が生じてしまいます(逆に、一切使わなければ、限定的な定義となります)。最終的にはバランスの問題となります。

② 「協議により」

これも、よく見られる条項ですが、これは、法律上は何も決まっていないに等しい(協議をすることだけが決まっており、合意に至らない場合の解決方法は定まっていない)ものといえます。

もちろん、現実問題として、全ての点を予め契約書上定めておくことは困難ですので、ある程度は、このような条項もやむを得ないと思われますが、協議条項を許容するとしても、可能な限り、確実に合意に至れると思われる項目か、自分の側として合意に至らなくても不都合な無い場合などに限定することをお勧めします。

③ 「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」

一般的には、この順番で即時性が要求されるとされていますがが、明確な定義は無いのが実情です。可能な限り、期限は明記する方向で調整されることをお勧めします。

④ 「・・・することができる」「・・・するものとする(しなければならない)」

一見すると似たような規定ですが、前者は実際にそうするか否かの選択権を有しているのに対し、後者は契約上義務的とされている点で大きな相違があり、契約上の位置付けとしては全く別物の規定となりますので、注意が必要となります。

当事務所が提供するサービス

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相手方が提示してきた契約書に関して、法律上の問題点の有無だけでなく、依頼者側の立場において、(もちろん力関係において難しい場合もありますが)可能な限り有利な構成とするための、条項案や交渉方法についてアドバイスさせて頂きます。また、ご要望に応じて、契約交渉自体の代理人として、直接交渉に当たることも可能です。

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もっとも、契約書の作成や内容チェックに関しては、スポットでの御相談を頂くということでも対応可能ですが、依頼者の置かれている状況や、その業界の慣行などについて、事前に把握できている情報が多ければ多いほど、それだけ、より様々な観点から、充実した検討が可能となることも事実です。

そのため、多数又は複雑な権利関係が存在し、その全体の状況を踏まえた契約が必要とされる場合、あるいは、日常的に沢山の契約書作成の相談があるなどの場合には、予め顧問契約を締結していただき、顧問契約の範囲内で対処させて頂く方が、費用的にもリーズナブルなものとなりますし、万が一契約関係にトラブルが発生した場合にも、内容を把握している分、迅速に対応できるというメリットもございます。

顧問契約の具体的な内容につきましては、「法律・税務顧問契約」をご参照下さい。